
クライオエッチング技術に対応する新素材
― 半導体製造向け FFKM シール材『J-4AP』の開発 ―
開発の背景
近年、半導体製造では微細化と高集積化のさらなる進展に伴い、製造プロセスの精度と信頼性が一層求められています。
その中でも注目を集めているのが、極低温下で加工を行う「クライオエッチング技術」です。
より深く細い溝や孔の形成を可能にする最先端プロセスですが、一方で、低温環境下ではゴム材料が硬化しやすく、安定したシール性能の確保が大きな課題となっていました。
森清化工では、この課題を解決するために、優れた低温特性とプラズマ耐性を両立した新素材、モリセイパーシティーシリーズ 『J-4AP』 を開発。
クライオエッチング装置向けシール材として、極低温環境下でも高い信頼性を発揮します。
クライオエッチングとは
クライオエッチングは、半導体製造プロセスにおいてシリコンウェハなどの基板を極低温(約 −50 ℃~ −150 ℃)に冷却しながらドライエッチングを行う技術です。
この技術には次のような特長があります。
・高アスペクト比構造の形成が可能(深くて細い溝・孔の加工に適する)
・低温化による熱ダメージの抑制
・ナノメートル単位の高精度加工が実現できる
・エッチング選択性の向上により、多層構造の加工が可能になる
一方で、以下のような課題もあります。
・極低温を維持するための設備コスト・運用コストが高い
・低温下では反応速度が遅く、処理時間が長くなる可能性がある
・すべての素材がクライオエッチングに適しているわけではない
特に、ゴム弾性体の硬化により、シール材の選定が難しいという課題に対し、森清化工では新素材『J-4AP』によって、低温環境でも安定したシール性とプラズマ耐性の両立を実現しました。
『J-4AP』の主な特長
(1)高い薬品耐性を備えた特殊 FFKM 構造
『J-4AP』のポリマーには、一般的な FFKM とは異なる分子設計を採用。
JIS K6397 に定義される FFKM(すべての側鎖がフルオロ及びパーフルオロアルキル又はパーフルオロアルコキシ基であるゴム状共重合体)に分類され、非常に高い薬品耐性を有します。
(2)優れた低温特性
一般的な FFKM に比べて、低温特性を約 50 ℃改善。
クライオエッチング装置のような極低温環境でも、ゴム弾性を維持し安定したシール性能を発揮します。

図1.低温性の比較
(3)高いプラズマ耐性
プラズマエッチング用途で使用される一般 FFKM と比較しても、同等またはそれ以下の重量減少率を示し、優れたプラズマ耐性を実証しました。
過酷なプラズマ環境でも長期にわたり安定した使用が可能です。

図2.プラズマ耐性(重量減少率)の比較
(4)非汚染性
『J-4AP』は、プラズマエッチング時に金属汚染の原因となる元素を含みません。
シリコンウェハと同じケイ素(Si)および軽元素のみで構成されており、系の清浄性を維持します。
(5)非粘着性
粘着性試験の結果、一般的な FFKM に対して約 1/4 の粘着力に低減。
装置部品への付着を抑制し、メンテナンス作業を効率化します。

図3.粘着性試験
まとめ
『J-4AP』は
・極低温環境下での柔軟性保持
・優れたプラズマ耐性
・低汚染・非粘着性
といった性能を兼ね備え、クライオエッチング技術の発展を支える次世代 FFKM シール材です。
森清化工は今後も、半導体製造分野における高性能シール材の開発を通じて、産業の進化に貢献してまいります。








